【D】人種差別発言への対処法

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勤務中に「ちょっとした事件」に出くわしました。今回は「人種差別発言」への僕なりの対処法について書きます。日本国外在住者の方々の参考になれば幸いです。

端的に事件を説明しますと、勤務中にお客さんでも関係者でもない、とある女性がふらりと僕の職場の建物に侵入して来ました。その女性は、僕には見えない何かと戦われているようでした。わけのわからないことを叫び、結果的に周辺の人々にも迷惑行為を行い、警察を呼ぶ騒ぎにまでなりました。「あなたは部外者ですし、ここから出て行ってください!」と何度お願いしても聞き入られず、女性は「私を助けて!殺される!すぐ警察を呼んで!」と喚き立てました。僕がいよいよ警察を呼ぶことになった際、電話で「変な女が職場にいて困っています。即摘み出して欲しいです!」と言っているのが聞こえたそうで、そこから僕への人種差別発言を含む激しい攻撃が始まったのでした。

僕は今年2023年でヨーロッパ在住13年目ですが、長く居住しているドイツ国内でも、また旅行中などにも、これまで人種差別発言はかなり受けて来ました。現在生活しているドイツではどのような感じなのかと言うと、日常的な、当たり前のようにあるものとは言わないまでも、かなり身近に感じることは多いテーマです。

僕自身が経験したエピソードは、過去に僕のYoutubeチャンネル動画でも語っております。よろしければご覧ください。

人種差別発言は、刑法上罰則規定(懲役刑や罰金)が定められている行為です。詳しく知られたい方は、ドイツ刑法130条に定められていますのでご覧になってみてください。

刑法に定めがあるので、実際に被害に遭った場合には罪を問うことが可能なわけですが、日常のシーンで突発的に起こる出来事について、残念ながらこの法律のみで相手に罪を問うことは非常に難しそうです。問題となるのは、証拠の保全と訴えの利益についてです。「こういうことを言われた」という場合に、撮影した動画や録音などで証明可能かどうか、そして「その発言・行為に対する罰則を科すことが適切か」ということがネックになるのです。十分な証拠が提示出来ない場合は、結局「言った言わないの議論」になり、裁判が行われることもなく話は流れます。

これは僕自身の経験上の話にはなりますが、ドイツの警察は「身体的被害」「財産的被害」がないと動いてはくれません。差別発言に関する訴えを起こす際は、「差別発言」単体ではなく、暴力行為であったり、財産権の侵害行為であったり、あからさまな差別による職場での不当な扱い等、付随する何かとセットで訴えを起こすのが有効かと思われます。また、大勢の人が見ている場所、もしくは少なくとも誰か証人がいる状態で起こったことであったり、自分1人でも十分に証明可能などというような条件が揃わない限り、事件として取り合ってもらえることがなさそうです。

今回は、見えない何かと戦っていた女性が、男性からナイフで襲われそうになったとのことでした。「誰も私を助けてくれなかった!」という主張から、警察官が来てから「僕が彼女を刃物で脅した」と言う風にいつの間にか話がすり替わっており、僕が訴えられるという事態に陥りました。

警察官が来るまでの間に、僕や、助けに入って来てくれたコリアンの方々に対して「ドイツ語もろくに勉強しないアジア人ども!お前らはこの国から出て行け!」「私はこの国に20年いて、優秀なエンジニアだ!お前らよりも素晴らしいドイツ語能力を持っている!」「お前のドイツ語はヘタクソ過ぎる!勉強しているのか?あ、お前らは馬鹿な人種だから勉強出来ないな!国に帰れ!金がないなら私がお前らの国へ送り返す!」などと騒いでいました。

警察官からは「女性はあなたを訴えると言っていますし、人種差別発言に対する反訴が出来ますがどうしますか?あなたと一緒にいたコリアンカップルも!」と言われましたが、一緒にいたコリアンカップルと共に断りました。

「いや、こんなことでいちいち訴えるのもバカバカしいですし…」

「まぁ我々アジア人はこういうことを言われることあるよね」

と笑っていると、かなり真面目な警察官は「君たちがこの国でそんな目に遭っているなんて…悲しい!もっと我々を頼ってくれ!」などと言ってくれました。その言葉は嬉しかったのですが、僕は訴える手間暇と、精神疾患が疑われる感じの相手ですし、どうせ彼女に対して特に何の罰も与えることは出来ないだろうということが容易に想像出来たので、訴えは起こさないと結論付けました。

僕の職場で、さらに監視カメラがあるエリアで起こったことだったので、警察官に監視カメラ映像を見せるだけで足ります。彼女の言う通り「刃物を持った男に襲われた」というシーンが映っていれば、僕は犯罪者となりえたのでしょうが、そのような事実はありません。僕の無実が証明出来たところで、こちらから何か更に講じられる措置があるとしたら、上司からその女性に対して「立ち入り禁止命令」を出してもらうことでしょうか。防犯カメラは通常、映像のみ・音声は録音されていないので、差別発言の部分の証明には残念ながらなりません。しかし、今回に関してはそれで十分です。

警察官を呼んでしまい、さらに後日警察官が監視カメラ映像を確認に再度やって来るということだったので、上司や同僚たちにレポートを書きました。同僚たちは「災難だったな!」と言いながらも大爆笑でした。僕が書いた文章の一部が面白かったようで、そこがツボだったという同僚もいました。僕が書いたドイツ語の文章に対して、ドイツ人やドイツ語を十分理解する同僚たちが大爆笑してくれたことで、馬鹿にされた語学力について少々自信に繋がりました。

僕自身も別に彼女から言われたことに対して、少々腹が立ったものの、特段傷ついた、どうにかして彼女を罪に問いたいと思う程度ではありませんでした。変に訴えを起こすと、書類上は手続きが進み、自分宅にも相手宅にもお互いの情報が掛かれた手紙が届いてしまいます。彼女とはこれ以上の関わりを持ちたくもないので、今回の件は「僕が彼女に対して刃物で襲い掛かっていない」ということが証明出来れば十分なのです。

同僚たちが爆笑してくれたり、僕自身が話のネタとして話した際に、話を聞いた友人たちが爆笑してくれているので、一緒になって笑い飛ばします。僕はこのようにして気を紛らわせて、いちいち気にしないようにしています。

ところで、インターネット上ではしばしば「このようなことを言われた!」「これは侮辱発言だ!」といった話題を目にすることがあります。ドイツ国内で、割と最近非常に注目を集めた話題は「チンチャンチョン問題」です。

この方(chori_deさん)のTwitterでの書き込みは瞬く間に拡散され、「チンチャンチョン発言」をしたJimmy Hartwig氏が自身のインスタグラムにて謝罪をする流れにまで発展しました。

これはTV番組内での発言なので、映像としてのれっきとした証拠はあるわけですが、在欧日本人たちを中心に「炎上」しました。番組制作側や発言者ご本人SNS等に抗議の声が寄せられたところで、WELT側はアーカイヴ動画を削除するだけで特に謝罪のコメントはなかったそうです。また、WELTに突撃をされた方によると、特に謝罪はないものの、出演者であるHartwig氏の今後の処分に関する点について「彼は素晴らしいコメンテーターであり、番組降板予定はない」という擁護コメントと取れる返答があったそうでした。

番組内でもう一方の男性も笑っているように「チンチャンチョン」はアジア人への重大な差別発言ではなく、単なるジョークくらいの認識であることが伺えます。実際、ヨーロッパではそのように思われているのが一般的です。ちなみに今回の問題発言者のHartwig氏は、自分自身がアフリカ系移民であるということで、いじめや差別を受けた経験があるそうで、反差別運動にも積極的に参加されている方なのだそうです。彼に限らず、差別反対運動や人権問題の活動家たちの、アジア人への侮辱や人種差別が目立ちます。残念ながら、アジア人はカースト最下位であると思わざるを得ません。

また、在外日本人の間で、頻繁に見聞きするテーマとして有名なものは「ニーハオ問題」があります。これは、普通に街を歩いているときなどに、通り過ぎざまに見知らぬ方から「ニーハオ!」と声を掛けられることです。これだけだと「何が問題?」と思われる方もいらっしゃることでしょう。この件に対しては様々な意見がありますが、概ね不快感を感じる方が多いかと思われます。僕自身実際に何度も経験していますが、非常に不愉快で腹立たしいものです。単なる挨拶として「ニーハオ」と言うのではなくて、しつこく、さらに馬鹿にしたように「ニーハオニーハオニーハオ!」と言い、数メートル付け回してくる輩もいます。

アジア人の見た目をしているので、中国人と間違われることは大いにあります。フォーマルの場で挨拶をする際に「ニーハオ」と言われた、または中国人の方が営んでいるアジアンショップやらレストランで中国人スタッフから「ニーハオ」と挨拶されるのとは訳が違います。概ね中国人の方は、僕が中国語が話せないと分かった瞬間からドイツ語で話してくれますし、悪意がないことは明白です。ヨーロッパの方々の間で、アジアと言えば中国のイメージが強く、日本語やその他の言語については一切知識がなく、軽い気持ちでニーハオと言ってしまう人がいるのも事実です。

では、普通に挨拶をしようとするのではなく、明らかに馬鹿にした感じで、しぶとく「ニーハオニーハオ」と言う輩に対して、人種差別や侮辱であると罪に問うことが出来るだろうか。

「ニーハオとは挨拶の言葉であり、別にあなたを傷つける意図がない」「訴える利益や事件性がない」と、相手にされないことが明白です。差別発言であるだとか侮辱発言であると騒ぐ方が、反って「私たち日本人を中国人と一緒にするな!」という、中国人に対して馬鹿にしているのではないかという突っ込みどころを与えてしまう結果になりかねません。

不愉快だと感じたら、それは不愉快なので止めて欲しいですと言うことは悪いことではありません。もしも友人であったり大好きな人から、差別発言であったり、不快感を感じられることを言われたり、目を指で横に釣り上げるジェスチャーなどをされた場合は「それを止めてください」「それは人種差別的です」としっかり伝えるべきです。

僕自身が心掛けていることは、なるべく気にしない、さっさと忘れることです。不快な行為に対して「止めてください」と言って通じる相手かどうかを見極めることも重要です。「この人には言っても無駄である」だとか今後のお付き合いがなさそうな相手には、多くは求めません。ケンカに発展しても、労力と時間の無駄です。裁判で訴えるということも、余程悪質な犯罪行為が付随しない場合は極めて難しいでしょうし、もし仮に警察に相談して被害届を出したところで、後日検察から「Das Ermittlungsverfahren habe ich gemäß §170 Abs. 2 der Strafprozessordnung eingestellt.」というお手紙が届いて終了です。

まるで子供のケンカ、単なる悪口でしょうという感じで軽くあしらわれるだけですし、そう考えますと脳の記憶を司る領域から、1秒でも早く消し去るようにする方が賢明です。

「差別問題」「差別発言」は、異人種間で起こるだけの問題ではありません。日本人同士でも、無礼者は存在します。そもそも異文化の人たちから「違うからこそ」色々と言われるはまだ我慢が出来ても、同じ民族である人から言われると特別腹立たしく思える瞬間もあるのです。

自分自身に対して、敵意を持って接してくる相手に対して、取りうる策は、

  • 戦うこと
  • 相手にしない、気にしないこと
  • 受け流すこと

です。

戦うには、時間も労力も割きます。いちいち相手にして、果たしてその労力に見合う成果が期待出来るのか(「訴えの利益」があるのかどうか)…そう考えると、ほとんどの場合は割に合わない結果となりそうです。世の中には色んな価値観を持つ人がいて、残念ながら、どうしても分かり合えない人たちもいます。そのような人たちに自分自身の意見を伝えて分かってもらおうとするよりも、そんな分かり合えなさそうな人たちとは距離を置き、自分自身を大切に思ってくれるであろう人たちとの素敵な時間を楽しむ方が、人生より豊かに過ごせそうですね。

僕自身はヨーロッパでは「よそ者」です。よそ者らしく現地の方々に受け入れられるように、そして僕自身も現地のルールなどに敬意を払いながら生きています。当然ながら、ドイツにはドイツ人以外の国籍・人種の方々も多く生活をしています。日本に暮らしていた時よりも、多くの異なった人種と出会います。時にはケンカも起こりますが、なるべく争いごとは避けながら、今後も大好きなヨーロッパで楽しく暮らして行きたいと考えております。

人生の限られた時間を楽しく生きて行くために、

  • 素敵だと思う人との付き合いの時間を増やし、
  • 嫌なことはなるべく考えないようにする
  • 他人へのリスペクトがない人間とは距離を置く

これが僕が見つけた「人種差別発言への対処法」です。

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