【D】外国人は出て行け!の歌

Leben

突然ですが、この曲はご存知でしょうか。

僕はいわゆる「パーリーピーポー」ではございませんが、イヴェントでもよく使用されている有名な曲で、聞き覚えのある曲です。特に、動画内00:35からの部分は特に有名な部分かと思われます。このフレーズの部分は、文字起こしして「Döp, dö dö döp」などと表現されていたりもします。今回は、この曲に関わる大きな事件について書きます。

この曲がドイツ社会で大きな話題となったきっかけは、2024年5月下旬のとある日です。ドイツ北部に浮かぶリゾート島「Sylt(ズィルト島)」の某有名クラブにて、若者たちがこの曲のメロディに合わせてとんでもない歌詞を付けて楽しそうに歌っていた様子を映した動画がSNS上に投稿され、瞬く間に拡散、その後世間を騒がせる社会問題へと発展していったのでした。

歌詞部分を和訳すると「ドイツはドイツ人のもの!外国人は出て行け!」となります。この動画が拡散されていくうちに、どんどん事態は深刻になっていき、インターネット上で個人情報の特定などが行われました。この動画の舞台となったズィルト島のクラブオーナーは早々に「該当人物の金輪際の立ち入りを禁止」を発表しました。そして様々なニュース番組でも取り上げられる事態となり、ショルツ連邦首相も「気味が悪い!」「許容される行為ではない」などと声明を発表しました。

興味深いことに、問題となった部分は、動画内にて男性が右手を大きく挙げる姿が「ヒトラー敬礼」であると評価されたことでした。そして、今回の件は

  1. ヒトラー敬礼をしながら
  2. 差別的な発言をしている

という2点の要素が揃ったことにより、刑事事件として扱われるべき事件と評されたそうです。ドイツでは「ナチスを連想させるもの」についての悪の意識が強く、ナチス敬礼であったり、ナチスを連想させる服装、鉤十字(逆)エンブレムを身に着けていたり(アクセサリー、タトゥなども含む)、ナチスの戦旗を備えているなどが確認出来た場合は、有罪となる旨が1984年の連邦裁判所判例により定義されているとのことです。

「ナチスを連想させるもの」についてはそれだけでも刑事上有罪となり得るが、「外国人は出て行け!」と歌ったのみでは、刑事上問題にはならなかったそうなのです。以前別の記事にて僕が「人種差別的な発言に対するドイツ刑法の取扱い」について私見を述べたことがありましたが、今回の事件の件をまとめたニュース記事を色々と拝見していると、「侮辱発言・差別発言単体のみでは事件として取り扱われない」という認識で概ね間違いではなさそうです。

しかしながら、このような動画が拡散され個人が特定されてしまえば、法で裁かれなくとも、本人たちは所属している会社から解雇をされたり、大学の立ち入り禁止・授業参加禁止が言い渡されるなどの社会的な制裁として大きな代償を払うこととなるのです。
最近では他に、イギリスの航空会社・ブリティッシュエアウェイズ(BA)の客室乗務員が、人種差別的な内容の動画を投稿していたとして、当該従業員2名が解雇となった事件もありました。動画内では、特定の人種の訛りの英語が話され、さらには指で両目を吊り上げるジェスチャーがなされています。
解雇された2名は、
  • Tiktokアカウントは自分たちのものではない
  • こんな動画を自ら公開するような馬鹿ではない
  • 動画はフェイクである

と述べ、この動画の作成者・投稿者を突き止めると主張しているそうです。「もう二度とこの航空会社では働きたくない!」とのことで、会社に対して不当解雇であるという点については争わないそうです。あくまで「自分たちがやったことではない」と、動画の内容に関して反省をしているという雰囲気はなさそうです。

ところで、2つの話題の動画についての僕の個人的な感想は、以下の通りです。
  • ドイツ・ズィルト島での動画:冒頭の女性の音の外し方が滑稽で面白い。男性は右手を挙げて踊っているだけに見えるが、これが果たして「ナチス敬礼」と評価されるのか疑問である。「歌詞の内容」の方が重要視されていないところ、強引に「ナチス敬礼」として評価している点に違和感を覚える。騒ぎを受け、この曲のイヴェント等での使用ボイコットが巻き起こっており、2024年ミュンヘン・オクトーバーフェストをはじめ、いくつかのイヴェントでは既に曲の使用禁止が発表されたそうだが…いや、曲は関係ない!アーティストが気の毒過ぎる!完全なとばっちりである。
  • イギリス・ブリティッシュエアウェイズ客室乗務員女性の動画:きっと「ウザいアジア人乗客の物まね」と軽いジョーク・ネタ動画として仲間内だけで笑い合うはずだったものが、動画を見て良く思わなかった「誰か」が、本人に成り代わって公開したものと思われる。やたらと目を指で吊り上げてアジア人を馬鹿にするジェスチャーが流行っているようなので、「この行為は許されないこと」と広まったケースとしては有難い事件かもしれない。ところで、ブリティッシュエアウェイズの客室乗務員は、他にも人種差別発言や、特定の人種の乗客を指したTiktok悪口動画が多く見つかっており、客室乗務員の質は残念ながら低いのかもしれない。職場で経験した理不尽なクレーム、とんでもない迷惑客のエピソードなど、本来ネガティヴな内容の話でも、面白可笑しく伝える方法はあると思われるので、一工夫欲しいところである。
僕自身、ヨーロッパに居住する外国人・アジア人の1人として言えることは、ご本人たちは「この動画の内容はウケル」と思ったでしょう。楽しそうな表情で動画に映っているところを見ると、とても自信ありげな主張であると思われます。僕はかれこれヨーロッパ生活は10年以上とはなりますが、いまだにところどころ彼らのユーモアセンスが理解出来ません。僕個人的には、直接「自分が傷つけられた!」とは思わないが、今回動画にハッキリと映っていた人物らに十分な社会的制裁を受けたことについては、やや喜ばしく思ってしまいました。不当な人種差別は今後無くなって欲しいなと願うばかりです。
ところで、職場にて僕が夜勤を終えて帰る頃、朝出勤してきたドイツ人のとある同僚から、「Döp, dö dö döp」のフレーズに乗せて「Ausländer raus!(訳:外国人出て行け!)」と冗談っぽく言われたことがありました。僕は周囲にいた他のスタッフ、委託の清掃業者さんたちにも声を掛け「さ、全員で帰るか!」と帰宅するフリをしました。僕は同僚に「今日のシフトを見てごらん、ドイツ人あなた1人しかいないよ!」と言うと困った!というリアクションをし、その場全員で爆笑しました。
これはあくまで冗談ではありますが、まだまだ外国人としてドイツで生きていける余地はありそうなので、嫌われないように生きて行くようにします。

 

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